負けた選手を殴るセコンドについて

白蓮会館九州本部の指導信条
『白蓮会館の指導者は、試合に負けた選手を、試合に負けたという理由で怒らない』
についての注釈です。


これは、我が師・杉原正康館長が負けた選手を常に温かく迎える指導者だったからです。
杉原館長が負けた選手に言葉を荒げることなど、ただの一度も見たことがありません。

もちろん、わたくし自身も試合で勝っても負けても、そのたびに杉原館長に報告に行きました。
しかし、杉原館長は負けたわたくしに、常に
『よしゃ!また練習やな。』
など、短く、端的に一言で励ますのみ。
わたくしからすれば、指導者とはかくあるものだと思っておりました。

ま、大人を怒鳴りつける指導者はほとんど見かけないのですが、世の中には負けた子供の選手をいきなり殴りつける指導者や保護者が意外にいるものです。

わたくしは杉原館長の弟子ですから、この光景は衝撃的でした。

心理学的に『ファン心理』という言葉は、自己の外部投影のことを指すそうです。
現実の自分にできないから、代わりに誰かに自己を投影する。
ファンは、自分が贔屓にしている選手が勝てば喜び、負ければ悔しい。


それはいいとして。


負けた選手に暴力行為に及ぶということは、自己投影の度が過ぎるように思うのです。

『いや、これはウチの指導方針だ』
と言われればそれまでですが。

でも、杉原一家で育ったわたくしからすれば、練習中に指導者が指導の一環として叩くのはまだわかるとしても、負けて戻ってきた子供にいきなり暴力を振るうということは、巨人が負けてメガホンをグランドに投げ込んで
『原のバカヤロー』
って怒鳴ってる酔っ払いのファンと同じレベルのように感じます。

某国のサッカー選手達は、W杯などの国の威信を懸けた試合で負けたら、帰国した直後に一切サッカーとの縁を切られ、長期の強制労働に飛ばされる、という話を聞いたことがあります。
この噂の真偽は置いといて、こんなプレッシャーのかかる状況の選手達が、存分に持てる実力を発揮できるわけがない。

最近では随分減りましたが、数年前までは負けた子供に、戻ってくるなり周りがドン引きするくらいビンタをバシバシ喰らわす親がたくさんいらっしゃいました。
この子達にとって、空手の試合というものは、某国のサッカー選手達と同じ、つらいつらい空間です。
こんなにも空手がつらいなら、親に絶対服従するしかない低学年の頃はいいとしても、自分で進路を選択する年頃になれば空手を辞めるのは明白でしょう。

その子達の試合中の表情は、決まって泣きそうな顔です。
機関銃に向かって、銃剣で玉砕させられる日本兵のように悲壮感ありありの顔で、セコンドを常にチラ見しながら戦う。
その表情は、僕は一生懸命です、僕は手を抜いていません、だから怒らないで、というアピールをセコンドに必死にしているように見えて仕方ない。

判定で負けを宣告された子供は、強い落胆の表情を見せます。
その落胆の理由は、自分が敗北したから落胆しているのではなく、直後に自分の身に降りかかるであろう親からの怒号と折檻を予期しての落胆なのです。

その子のその後はもう見ていられません。



九州で、子供から大人まで全階級の選手が強い流派(名前は敢えて伏せます)があります。
その流派は、負けた子供をとにかく褒める。
『よくやった!良かったぞ!次はいけるぞ!』
って、みんなで出迎える。


子供達が上達する上で一番重要なのは、どんな結果であれ、指導者や親の『絶対肯定』なのではないかと思うようになりました。

負けようがどうだろうが、チームに戻った時に、仲間達が温かく迎えてくれる。

この安心感は大きい。

この、結果がどうあれ、確かに自分は間違っていないのだという絶対的な安心感で頑張っている子供と、負けたら凄まじい苦痛が待っている、というプレッ シャーで頑張っている子供と、同じ練習量、同じ練習カリキュラムで比較したら、短期間でも圧倒的な差がつくのではないでしょうか。

翻って、わたくしには杉原館長という絶対的な師匠がいました。
だから常に安心して練習もできたし、余計な心配などせずに試合に集中できました。
これがもし、
『ヤバいぞ館長、機嫌悪いぞ』
とか変なこと考えながら試合に臨まなければならないのなら、ただでさえ試合前で考え事が多いのに、またさらに考え事が増えて試合に全然集中できない。

選手時代のわたくしを振り返っても、たとえどんな試合をしようと、確実に杉原館長は自分を肯定してくれるだろうという、大きな安心感の中で試合ができていたのだなと思います。


現在の白蓮会館九州本部で好成績を残す子供達も、御父兄の絶対的な肯定の中で、純粋に空手競技に打ち込んでいるように思います。

だからこそ、
『選手が好成績を残すのは、自分が凄いからではなく、家族その他のサポートのおかげである』
と断言できるのです。


物言わぬ家族。

しかし、こんなにありがたい味方は他にありません。
だって、誰があなたのファンかって、子供の一番のファンは、親に決まっているじゃないですか。

勝てば勝つほど、自分を取り巻く全ての人に感謝の気持ちを持ってほしいと思います。

負けても、また次のチャンスを与えてくれる親に心から感謝です。

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